※ちょっぴりアダルトな表現が含まれています。
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---どうして---
いつからだろうか。
彼が自分の思考を支配し始めたのは。
気付いてしまってからでは遅かった。
だって俺は嘘が苦手で大嫌いで、ヘタクソだったのだから。
「アッシュ。」
「…あ、ハッ…ハイ!なんスか!」
俺は自分の出した声に、内心頭を抱え呻いた。
また、失敗した。
あきらかにうわずった声。
結果、彼は不審げな顔をして俺を見つめている。
「…僕ちょっと、外で休憩してくるから…」
「あ、…いってらっしゃい、っス。」
答えると同時に彼は背を向けて、重いドアを開き、スゥっと出て行った。
閉じ込められたスタジオの中でひとり、俺は不意にスティックを振り下ろす。
今さっきまで練習していた曲を、激しい音量に変えて叩きながら。
今日で何度目かわからない、自分の”失態”を思い出して舌打ちをした。
(呆れるっスよ、全く。)
ジャーン!!
割れてしまうような勢いで叩かれたシンバルが耳を刺激する。
跡をひいて響く音の中、スティックを置いて、両手で顔を覆う。
どうすることもできず、単純でしかない自分の動きにため息を覚える。
思い出せよ
何にも気付いてなかったあの頃、彼にどう接していたのかを
幾度となく繰り返した挑戦。
それは頭の中を通るだけで終わる。
もうココには、知ってしまった自分しか残っていないのだから。
彼が自分に笑いかけてくれるだけで飛び跳ねるように嬉しくなる。
彼が自分にかまってくれないだけでこの世がなくなってしまったように寂しくなる。
彼が何かを望めば、俺は何でもやってのけてしまおうとするのだろう。
そんな考えが頭を何度も通っていく。
それが今の自分。
確認し、ため息を吐き出したところで、扉が開き。
スマイルが帰ってきた。
「ただいま。」
「おかえりなさいっス。」
ドキドキと脈打つ心臓が五月蝿い。
さぁ、がんばるぞー、と声を出したスマイルは、ストラップをかけ、ベースを抱え上げた。
いつまで、こんな状態が続くのだろう。
それからは、どうしようもならない苦しみに、ただ何も考えないようにして耐えるしかなかった。
幸いバラバラに抱える仕事が多く、あまり顔をあわせることがなくなったり、仕事の忙しさがあったり。
会うことがあってもわざと傍にいることを少なくするように避けていた。
どうしてか、彼が自分の前に現れそうなコトが多かったので、その寸前に場所を変えたり。
別の人(例えば、ユーリとか)に話しかけたり。
平静を装うとすれば意外に簡単だったことに慣れ、次第に苦しみは軽くなっていった。
それが、彼に気付かれているとも知らずに。
「今、暇かい?」
ある日、突然だった。
太陽が真上を過ぎていて、家事を済ませリビングのソファでくたびれていた頃のことだ。
ふたりして休みの日。
今までそんな時は、家事の忙しさにかまけて自分の食事を遅めにし、彼と向かい合う時間を失くしていた。
なのに。
ひとりで取る、おやつの時間まで顔を見せることの少ないスマイルが声をかけてきたのだ。
俺は不意打ちの相手の登場に慌てて顔を上げて。
内心では悦び、その反面、反応に困っていた。
「えっと…。」
暇でないわけじゃない。
ただ…彼とふたりきりで話す状態に対し、心の準備が全くできずに躊躇してしまっている。
ましてや最近避けていた分それはなおさら。
言葉に困っている俺にスマイルが笑顔を向けて言葉を続けた。
「すぐすむと思うよ、聞きたいことがあるだけだから。」
俺はその笑みに安心して、笑顔で返した。
「いいっスよ。何っスか?」
「気のせいじゃなかったら。」
ソファに片手をかけて、体重をかけるように体が傾き。
目の前に迫ってくる相手に俺は反応を返す暇がなかった。
「最近、君の様子がおかしいから。特に、僕に対してかな。」
ビクリ。
最悪だ。
彼の言葉に反応して、肩があからさまに震えてしまった。
もちろん目の前の相手も気付かなかったわけがなかった。
「わざとだったんだ。」
俺はその場から、彼の前から逃げ出そうと慌てて身体を起こした。
「避けるほど、僕が嫌?」
途端、衝撃のまま俺は仰向けに崩れ落ちる。
つかまれた両肩をソファのシートに押し付けられ。
「っ…!」
痛みを伴う事はなかったが、ぶつかった反動から自然と声が漏れた。
事実、痛みを伴うのは、彼の、頑なに握っている手に押し付けられている肩。
じんわりと広がる熱に声を零した。
恐る恐るゆっくりと、瞳を開いて前を見つめる。
隻眼の彼の赤い瞳にぶつかって。
「…っぁ。」
何か、言わなければ。そう思うのに何を言えばいいのかわからず声は出ない。
今の状況…コレはなんだ?
「僕を受け入れるか、拒絶するか。…たったの二択だ。」
聞いておいて、答えも聞かずに。
スマイルは俺に強引なキスをした。
「嫌いなら嫌いだって、言ってくれればいい。」
スマイルの一言。俺はそれを聞いて、必死に首を横に振った。
嫌いなものか。嫌いなら、こんな苦しみなんて味わうはずがない。
「嫌なら、抵抗してくれればいい。…そしたら僕は二度と、君に触れはしないから。」
スマイルの手が服の裾から入り込んくる。
俺はそれに反応し、返答さえままならずに、喘いだ。
「…っぁ…!」
冷たい感触に身を引く。
けれど俺の両腕は覆いかぶさるように在るスマイルの胸にそえられているにも関わらず抵抗を見せない。
スマイルはそれを確認すると、一瞬止めていた手を再び動かし始めた。
身じろぎをして逃れようとしても上から押さえつけられた状態ではほとんど意味がない。
「抵抗するなら、本気で僕を殴るなり突き飛ばすなりしないと、駄目だよ。」
耳元で言葉と共に息を吹き込まれ、体がビクリと弾む。
その反応が面白かったのか、スマイルの口の端が上がる。
その瞬間を垣間見たすぐ後、耳の中へと彼の舌が差し込まれた。
「ぅ…。」
抵抗すれば、終わりなんだ。
拒絶したら二度と触れない、と、彼はそう言った。
彼は急いている。
俺の気持ちが自分の願い通りではない方向に固まっていると思って。
「…っ。」
俺は声を押し殺すフリをして、唇を噛んだ。
実際は固まってすらいないこの気持ちは、当の本人でさえ持て余しているのに。
二度と戻れない選択なんて、出来るはずがない。
そう伝えたいのに、やっぱり上手く言葉が出てこなくて。
与えられてくる快感に余計に思考を奪われていく。
耳で弄んでいた舌が首筋をせめ始めて。
俺は喘ぎ声を出さないように身を口をと固めて、彼の背に手を回した。
時折、呼吸で激しく上下する俺の背中を彼は撫でた。
攻め来る行為とは違ったその優しい動きがツラくて。
泣きそうになるのを堪えるために、ぎゅっと彼の背中を抱き締めた。
「僕は、卑怯だね。」
さっき、人の反応を見て悦んだ笑みとは違った自嘲の笑みを浮かべながら。
彼は俺に聞こえるようにつぶやいた。
「君の優しさを利用してる。」
スマイルの細い指が、俺の目で溜まっていた涙をすくう。
俺は荒れた呼吸を整えながら、首を横に振った。
「…違う。あんたの言うそれは…」
俺の気持ちを一片だって含んでない。
伝えたかった言葉は、強引に口付けられ入り込んだ舌によって失われた。
流される行為によってドロリと溶かされ、思考力は低下していく。
近すぎる相手の顔をうっすらと開いた瞳で見つめ
(…まつげ…長い…)
だなんて、訳のわからないコトを冷静に見ている自分。
今はもう、細かいことなんてどうでもいい。
全てがなくなってしまうよりは、全てを曖昧なままでも繋いでおきたかった。
俺が、何も変わることはなかった。
朝日が昇る頃に起きて、キッチンへ入る。
一番最初に、薬缶を火にかけてお湯を沸かす。
その間に野菜を洗ったり、パンを切ったり、卵を焼いたり。
三人分の朝ごはん。
ただ今日は、二人分にラップをかけた。
いつもは昼前にしか起きないユーリの分だけだったのに。
「…普通に、呼びに行けばいいのかな?」
昨日のことで、俺が悩んでいるのは、自分から彼に何をすればいいかわからないからだ。
彼からは何も求められていない。
答えを求められたわけでも、体の関係の延長を求められたわけでもなく。
彼に抱かれた事は俺にとってむしろ望んでいたことだったのに。
あんな形としてではなかったが。
…結論。
俺は訳がわからないまま取り残されているのだ。
自分で思うのはただの予想、いや俺の場合願望にさえなりうる。
スマイルの口から、事実を聞きたい。
「…でも、聞けるわけ、ないよな…。」
冷めたコーヒーを飲みながら、ひとりごちた。
俺にはそんな勇気も自信もなくて。
今が悪い状況ではないと言えるわけじゃないが、今より悪い状況になる可能性はある、ありすぎる。
ただそれが恐い。
結局、俺はあのことを無視して、ただスマイルを食事に呼びに行くことだけにした。
「…どうしてキミはココに来れるのさ…」
扉を開いたスマイルが片手で顔を覆い脱力していった。
吐いたセリフから、なおさらその心境がよくわかる。
俺は答えることなく、用件を口にする。
「朝ごはん、食べない気なら許さねぇっスよ。」
「…それって、昨日のコトより大事なコト?」
うずくまった状態のまま、見上げて睨みつけてくるスマイルの瞳。
俺は反射的に目線をはずす。
すると足元から、大きなため息が聞こえて。
「…ゴメン、置いといて。キミがいない時に食べに行くから。」
パタン。
立ち上がったスマイルが、俺を軽く突き飛ばして扉を閉めた。
ひとり取り残された沈黙の中、俺はどうしようもなくイラついて。
バンッ!!
「あんたこそ!そんなに大事なら、どうしてあんな中途半端なコトすんだよ!!」
俺は目の前の扉を強く叩きつけ、叫ぶ。
返事は…なかった。
ああ、こなけりゃよかった。最悪の結果じゃないか。
俺は唇を噛み締めて、襲いかかってくる感情をただ堪えた。
曖昧なままでも繋いでおけばよかった。
そう、後悔ばかり思い地面を見つめていた俺の腕を、何かが強く引っ張った。
「…スマイルっ。」
俺の身体は、開いた扉に引き込まれ、すぐ傍の壁に押し付けられていた。
肩に強くかかる感覚は、昨日と全く同じで。
ただ違うのは、彼の瞳が、悲しげに光っていること。
「どうしてだって!?わかんないかなぁ!僕はキミのことが好きなんだ!なのに、キミに嫌われていると知った。
絶望的だった…触れないと、自分のモノにしてしまわないと。そう思った!」
何もできなかった。
俺はただ目の前で叫ぶスマイルを見ていた。
「キミに今以上に嫌われるとか、今までのコトとか後のコトとかどうでもよくて!そう覚悟してたのに!
キミはなんで平然と普通に、朝ごはんは作る、来ない僕は迎えにくる、あげく僕にどうしてだと叱咤する…」
叫び続けていた声が、落ち着いた。
俺は、彼のそんな様子を率直に口にした。
「めずらしく、饒舌っスね…。」
「だから、なんでキミはそんなに普通でいられるのさ…。」
肩に押し付けていた手の力が和らぎ、スマイルの身体が倒れかかる。
まるで、脱力したようだった。
俺は、彼の頭をそっと抱えて。
「俺もあなたが好きだからですよ。」
囁くように、けれどはっきりと伝えた。
”君のことが好きなんだ!”
彼の言葉で頭がいっぱいだった。
今までの不安を吹き飛ばす理由は、それで十分だった。
「…先に言わせておいてからだなんて、卑怯だ。」
そう笑いながら言って、キツくキツく抱きしめてくる相手の腕。
俺も苦しいと呻きながら笑った。
「俺だって、あなたの知らない間ずっと悩んでたのに。平然としてたなんて、失礼なんスよ。」
俺がそうやって憎まれ口を叩いても、彼はヒヒヒと笑うだけで。
全く、あれだけ悩んで苦しんでいた俺はなんだったんだろうか。
抱きしめられる温かさの中で、どうしてか、そうやって失った感情を寂しく感じていたのだった。
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CC/水月朱斗さまより相互記念に頂きましたv
どきどきです。
微妙にスレ違っている二人の気持ちがなんとも言えません。
思い悩むアッシュと焦るスマイル。
そんな二人の取った行動は全然違うものでも気持ちは一緒。
お互いを理解しあう前の、こういうお話は本当にどきどき
わくわくします。この二人には、こんな過程もあったのね。
そしてラストの一文に、なんだかしんみり。
文に入る前に注意書きがあります(笑)。私が「ちょびっとえろ」を
リクエストしたからなのですが、私と水月さんのえろの範囲が全然違ってて
スゴイのきたらどうしよう(それはそれで嬉しい)、と思っていたのですが、
その辺は水月さんがちゃんと「表に置けるものを」として書いて下さいました。
水月さま、相互リンク&素敵な小説本当にどうもありがとうございました!!
これからもよろしくね、朱ちゃん!!